(1)はじめに:非ホジキンリンパ腫とは
血液細胞の一種である白血球は、さらに何種類かの細胞に分けられますが、そのうちのリンパ球とよばれる細胞が腫瘍化した病気で、腫瘍化したリンパ球が身体のなかで塊(腫瘤)を作る場合に「悪性リンパ腫」、骨髄中で増えて血液中をまわる時に「リンパ性白血病」と表現します。しかし、これらは厳密に区別できない場合もあります。
悪性リンパ腫はさらに「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」に分けられます。腫れている組織(リンパ節など)をとってきて、顕微鏡で観察し、そこに非常に大きな「ホジキン細胞」や「リードステルンベルグ細胞」と呼ばれる特殊な腫瘍細胞がみつかった場合に「ホジキンリンパ腫」と診断名をつけ、一方それらの大型腫瘍細胞が見つからない場合には「非ホジキンリンパ腫」という診断名をつけます。
(2)疫学:
我が国での発生は、1年間に数千人の方が発症していると言われますが、近年増加傾向にあります。各々の組織型毎に、発生しやすい年齢、地域等が異なっています。
日本では、ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫全体の1割程度を占めるにすぎず、大部分が非ホジキンリンパ腫になります。
非ホジキンリンパ腫は更にWHO分類という病理学的分類によって、非常に多種類の病型に分類されます。
(3)病因病態:
悪性リンパ腫において、明らかな一つだけの原因というものはありません。リンパ腫に限らず、「がん」は遺伝子にキズがついて発症しますが、キズをつける原因としては様々な要素が関係しています。ウイルス感染、放射線、紫外線、ある種の薬剤、ホルモン、様々な炎症性の病気、加齢など複数の要因が重なって、発病すると考えられています。
悪性リンパ腫は身体の中のどこからでも発生します。非ホジキンリンパ腫の6割はリンパ節が腫れて発病します。残りの4割はリンパ節以外の身体中のどこからでも発生します。全身のいろいろな臓器の腫瘍として発見されますので、他の「がん」との鑑別が重要になります。
特殊な病型として血管内リンパ腫と呼ばれるものがあり、この場合は塊を作らずに身体中の血管内に腫瘍ができ、不明熱と多臓器不全として発病する事が多く、診断も治療も難しくなります。
(4)診断方法
悪性リンパ腫の診断は、腫れているリンパ節やその他の腫瘍の組織を「生検」といって採取し、それを病理医が顕微鏡で観察する事で診断されます。できるだけ詳しい検査を行うために、ある程度の大きさの組織をとる事が望ましいとされています。ある程度の大きさの組織がとれた場合は、病理診断以外に、フローサイトメトリーという細胞表面のタンパク質の性質を調べる検査や、染色体分析という検査を行う事で、より詳しい診断をつける事ができ、治療方針を決めるのに役立ちます。
(5)治療方針
悪性リンパ腫は全身のどこからでも発生するため、かつては各科で治療がそれぞれに行われていた時代がありました。しかし発生部位は異なっても、基本的には血液の腫瘍であり、治療法の選択や投与法および副作用対策などが複雑なため、血液内科医が中心となって治療を行う必要があります。
悪性リンパ腫の治療方針は、主に病理組織型(悪性度)、病期(ステージ)、発生部位などの要素により、決定します。
治療方針決定のための必要事項:
リンパ腫は、あらゆる臓器から発生し、またきわめて多様な病型から構成されています。
以下の要素に留意し治療方針を決定します。
1)病理組織型、悪性度:治療方針を決める最も重要な情報です。
病理組織学悪性度より悪性度を以下の如く分けます。
- 低悪性度(進行がゆっくり:年単位の病気)
- 中悪性度(進行がはやい:月単位の病気)
- 高悪性度(進行が非常にはやい:週〜日単位の病気)
また、B細胞性か(リツキサンを含んだ治療の適応となる)、T/NK細胞性かも重要です。
2)発生部位:特に節外臓器原発
節外臓器の原発の場合は、リンパ腫があるためにその臓器機能が障害されている可能性があります。また、その臓器における慢性的な炎症が病気の発生要因になっている事もあり、基礎となる慢性炎症による症状が加わる事があります。治療にあたっては、これらの要素を考える必要があります。
3)病期
悪性リンパ腫ではAnn-Arbor臨床病期分類と呼ばれる固有の病期分類を使います(他の固形がんではTNM分類と呼ばれる病期分類を用いています)。病期を確定するためには、全身CT、Ga-scanあるいはFDG-PET、骨髄穿刺生検などの検査が必須となります。
- I期:1箇所だけリンパ節が腫れている
- II期:複数のリンパ節が、上半身あるいは下半身のいずれかで腫れている
- III期:複数のリンパ節が、上半身と下半身の両方で腫れている
- IV期:リンパ節以外の臓器(骨髄、肝臓、肺、脳など)に転移している
4)初発か、再発か?
5)心、肺、肝、腎、骨髄などの重要臓器の予備能力:
各種血液検査や心エコー、動脈血ガスなどでチェックします。
(6)治療の実際
局所療法(外科切除、放射線照射)の適応は限られ、全身的治療(化学療法)による根治療法を基本とします。
6−1、放射線療法
適応は非常に限られます。しかし、以下の場合には重要です。
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1、限局期(Ann Arbor IA期)の低悪性度リンパ腫(濾胞性リンパ腫やMALTリンパ腫とよばれる病型)では、放射線照射だけで治療を行う場合もあります。
2、限局期(Ann Arbor IA期)リンパ腫では、化学療法を短期間(3〜4コース)施行後に、病変部に放射線照射を行う治療法をCMT(複合的治療)が選択される事もあります。
3、化学療法が終わっても腫瘍の一部が残ってしまった場合には、後から放射線治療を追加する事もあります。
4、造血幹細胞移植の前処置の一部として行う事があります。
6−2、化学療法
6−2−1)びまん性大細胞性Bリンパ腫
非ホジキンリンパ腫の中で最も多く(過半数)を占める病型で、中等度悪性度のリンパ腫(はやい:月単位で進行する病型)です。
R-CHOP(リツキサン、エンドキサン、アドリアシン、オンコビン、プレドニン)療法が世界的な標準治療です。通常は3週間間隔で6〜8コースの治療が行われます。
限局期(I期)の場合、R-CHOP×3〜4コース後に病変部位への放射線照射を行う治療(CMT)がよく行われます。最近、R-CHOP療法を3コース行った後にPET-CTで治療効果を評価し、病気が消えていればもう1コースのR-CHOPを追加、病気が残っていれば放射線照射を追加するという方法がカナダのグループから報告され注目を集めています。しかしこの方法が本当に有用かどうかは、今後も多くのデータを集めて調べる必要があります。
進行期の病気に対しても、更に治療効果を上げるための臨床試験が各国で行われています。
JCOG-LSG(日本臨床腫瘍グループ・リンパ腫研究班)では、低リスクグループの患者さんにJCOG 0601という臨床試験が始められました。通常のR-CHOP療法に対して、weekly R+CHOP療法(リツキサンを毎週投与する事でリツキサンの血液中濃度をあげる治療法)が、更に治療効果を向上させる事ができるかどうかを調べる臨床試験です。
高リクスグループの患者さんに対する臨床試験も近日中に開始される予定です。
6−2−2)Burkittリンパ腫
日本では稀な病型ですが、高悪性度リンパ腫(非常にはやい:週〜日単位)で進行します。
病気の進行が早いために、R-CHOP療法よりも強い治療:短期集中型治療が必要になる事が多い病型です。短期集中型治療としては、CODOX-M療法という治療法が代表的な治療法です。
6−2−3)低悪性度B細胞性リンパ腫(ろ胞性リンパ腫、MALTリンパ腫など)
限局期(病期IA期)であれば、放射線療法でも治癒が望めますが、低悪性度リンパ腫は進行がゆっくりで、全身症状を伴う事が少ないため、多くの患者さんはかなり進行してから発見されます。I期であるかどうか、PET-CTや骨髄検査などの所見を含めて慎重に検討する必要があります。
II期以上では、化学療法が行われますが、かつての標準的治療であるCHOP療法では、一時的には縮小効果を認めますが、再発しやすい事が知られています。
現在のところ標準的治療は決まっていません。JCOG-LSGではJCOG 0203-MF研究として、R-CHOP療法を3週間間隔で行う治療(Standard R-CHOP療法)と2週間間隔で行う(Biweekly R-CHOP療法)の比較試験が行われました。長期的にどちらが良いかは、さらに何年もの観察期間が必要です。
近年はリツキサン、ロイスタチン、フルダラなどの薬がよく使われ、これらの薬の単独の治療およびこれらの薬を含む多剤併用療法がよく行われます。金沢医科大学病院では、R-CMD療法(リツキサン、ロイスタチン、ノバントロン、デカドロン)という組み合わせの治療の臨床試験を行っており、北陸造血器腫瘍研究会として多施設で共同研究を行なえるかどうか、提案中です。
また、ミニ移植(骨髄非破壊的前処置による同種造血幹細胞移植)も有効である事が分かっており、化学療法だけでは再発を繰り返すような患者さんには選択肢となります。
6−2−4)血管内リンパ腫
腫瘍が塊をつくらずに、全身の微小血管内に腫瘍塞栓のようにして発生するリンパ腫で、診断や治療が非常に難しい病型です。しかし近年このような病型がある事の認識が広がり、比較的早期に診断し治療開始する事も可能になってきました。金沢医科大学および北陸造血器腫瘍研究会/北陸IVL治療研究会では血管内リンパ腫に対する早期診断→治療の臨床試験を行っています。
6−2−5)中枢神経リンパ腫
脳/中枢神経から発生する非ホジキンリンパ腫は他の部位から発生するものに比べ治療が難しい事が知られています。それは、血液−脳関門(BBB)とよばれるバリアーがあり、点滴で投与した抗がん剤が脳内のリンパ腫組織に到達しづらい事が知られているためです。かつては、全脳放射線照射という放射線治療がよく行われていましたが、これだけでは治療効果が不十分なだけではなく、照射後の後遺症として神経障害を高率に認める事が分かっています。
病理組織学的には大部分が、びまん性大細胞Bリンパ腫ですが、前述のBBBがあるため、CHOP療法やR-CHOP療法では、治療効果が不十分です。近年はメソトレキセート(MTX)という薬を大量に投与するとBBBを通過し脳の病変にも有効である事が分かってきましたが、MTX大量療法だけではこれまた不十分です。そこで、MTX大量療法と何らかの化学療法を組み合わせる事が世界中で試みられています。金沢医科大学病院では、MR-CHOP療法(大量MTX + R-CHOP療法)という組み合わせの治療の臨床試験を行っており、北陸造血器腫瘍研究会として多施設で共同研究を行なえるかどうか、提案中です。
思春期の少女とうつ病
リツキサンは分子量が大きいため通常の投与法ではBBBを通過しづらい事が分かっています。そこで、リツキサンを髄腔内投与といって、脳脊髄液中に直接投与する事で、効果の得られる症例も報告されてきています。しかし、リツキサンの髄腔内投与は一般に認められた投与法ではありませんので、臨床試験として行うべき治療法です。北陸造血器腫瘍研究会では福井大学からの提案で、リツキサン髄腔内投与を多施設で共同研究を行なえるかどうか検討中です。
6−2−6)T細胞性リンパ腫
CHOP療法を基本としますが、組織型、病期、発生部位、初再発などの条件により、更に強力な治療(DeVIC療法、ESHAP療法、ACVBP療法など)や疾患特異的な治療を考えます。
T細胞性リンパ腫では、現在のところB細胞性リンパ腫におけるリツキサンのような特効薬がないので、従来の抗がん剤の組み合わせで治療される事が多い病気です。
B細胞性リンパ腫に比べ、一般的に難治性である事が多いため、造血幹細胞移植も行われています。
抗CCR4抗体という新しい薬が現在治験中で、将来のT細胞性リンパ腫の治療薬として期待されています。
6−2−7)NK/T細胞性リンパ腫
鼻から発生するNK/Tリンパ腫という病型があり、通常のCHOP療法には治療抵抗性である事が知られています。JCOGではJCOG 0211-DIという臨床試験で、2/3減量DeVIC療法と放射線療法を組み合わせたRT-DeVIC療法の治療効果が検討されました。現在のところ情報を解析中ですが、従来の治療に比べ期待できそうです。
進行期NK/Tリンパ腫、Aggressive NK細胞白血病に対しては、NK腫瘍研究会で、SMILE療法という臨床研究が日本および海外との共同研究で行われています。
6−2−8)成人T細胞性白血病/リンパ腫
HTLV-1というウイルス感染が発病の一要因として知られ、日本でも九州や四国地方に多いというように病気の発症に地域的特徴のある病気です。しかし、北陸でも散発的に見られます。この病気もCHOP療法での治療効果が不十分である事が分かっています。JCOG-LSGではmLSG15 (VCAP/AMP/VECP)という治療法とbiweekly CHOP療法(2週毎に行うCHOP療法)との比較試験を行い、mLSG15 (VCAP/AMP/VECP)の治療成績が勝っている事を示し、これが唯一の根拠のある治療法となっています。しかし、mLSG15 (VCAP/AMP/VECP)でも根治できる患者さんの数は少なく、化学療法で寛解にある時期に(もしくは寛解に入らなくとも)ドナーが見つかり条件さえ整えば、同種造血幹細胞移植を施行する方が望ましいと、一般には考えられています。
6−2−9)再発例、難治例
一度は寛解に入ったものの再発したり(再発例)、初回の治療で寛解に入らなかったり(難治例)では、初発の時に比べ治療が困難になります。それは腫瘍細胞が既に投与された抗がん剤に抵抗性を持っている(腫瘍が強くなってきている)面と、患者さんの身体は既に投与された抗がん剤治療によりダメージを受けている(身体は弱ってきている)面の両方の要素によります。このような時は、初回治療とは異なった薬剤の組み合わせによる治療(サルベージ療法)を行います。
様々なサルベージ療法:EPOCH療法、ESHAP療法、DeVIC療法、hyper C-VAD/MA療法、経口少量VP16療法、少量持続Irinotecane療法などがあり、病状により選択されます。金沢医科大学病院では、再発難治性のリンパ腫に対する少量持続Irinotecane療法の臨床試験を行っており、病気と共存する方向の治療の有用性を調べています。
再発を繰り返す症例では、造血幹細胞移植も選択肢になりますが、リンパ腫に対する造血幹細胞移植の有意性については未だ不明確で、臨床研究として行う事が推奨されています。
(7)薬剤の有害反応およびその対策
抗がん剤はがん細胞を攻撃する効果(作用)がありますが、同時に正常な細胞にも影響を与えます(副作用)。最近は、副作用を軽くするための薬の開発も進んでいますので、安全に治療が続けられるようになってきています。副作用には個人差があり、すべての患者さんに現れるとは限りません。また、副作用の種類や程度などもさまざまです。副作用の中には重症化すると危険なものもありますが、早い段階で気づいてすぐ対応すればあまり心配はいりません。抗がん剤による主な副作用と発現時期とその対策についてお示します。
7-1)アレルギー
点滴中にアレルギー症状が現れることがあります。まれに急に血圧が下がるといった症状が起こることもあります。点滴中に息苦しい、心臓がどきどきする、皮膚に赤いぶつぶつがでる、からだがかゆいという症状が現れたり、少しでもおかしいと感じたりしたときは、近くにいる医師や看護師、薬剤師にすぐにお知らせください。
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7-2)骨髄抑制による感染症
血液のなかには白血球、赤血球、血小板という血球成分があり、それは骨髄という、いわば血液の工場で作られています。抗がん剤の治療により細菌からからだを守る役割を担う白血球、特に好中球という成分が一時的に著しく減少し、からだの抵抗力が低下して、風邪や肺炎などの感染症が起こりやすい状態になります。治療に使用する抗がん剤によって発現する時期や程度に差がありますが、点滴後1~2週間くらいに最も少なくなり、数日間続きますが、次の点滴までにはもとの値にもどります。白血球・好中球の減少はほとんど自覚症状がありませんが、点滴後1~2週間くらいは感染しやすい時期ですので注意が必要です。手洗いとうがいをすすんで行い、からだを清潔に保つよう心がけましょう。この時期に38℃以上の熱� ��でる、寒気がする、のどの痛みがある、排尿時に痛みがあるなどの症状が現れたら感染症にかかっている可能性がありますので、すぐに担当の医師や看護師、薬剤師に伝え、指示にしたがってください。感染症は重症化すると全身の臓器が正常に働かなくなるなど、命に関わることもある危険な合併症です。しかし、早い段階で気づけば、抗生物質を使用したり、好中球を増やすお薬を使って治療したりすることができます。
7-3)骨髄抑制による貧血
抗がん剤の治療により赤血球という成分が減少し、からだ全体に酸素や栄養を運べない、いわゆる貧血といる状態になることがあります。貧血になると、めまい、立ちくらみ、からだがだるい、心臓がどきどきする、息切れがするなどの症状が現れます。治療中は急に立ち上がらない、適度に休息をとるなどしましょう。赤血球が低下した場合は、治療を延期したり、場合によっては輸血をすることがあります。
7-4)骨髄抑制による出血
抗がん剤の治療により血小板という成分が減少し、出血しやすい状態になることがあります。血小板は出血時に血液を固めて止血する働きがあります。そのため血小板が減少すると、傷をしたところからの血が止まりにくい、内出血がよくできる、歯ぐきから出血するなどが起こります。治療中は刃物の取り扱いに注意し、傷をつくらないよう気をつけましょう。歯磨きもやさしくするとよいでしょう。血小板が低下した場合は、治療を延期したり、場合によっては輸血をすることがあります。
7-5)吐き気、嘔吐
抗がん剤によって引き起こされる吐き気や嘔吐は、投与直後から数時間以内にみられるもののほか、投与後24時間以降にみられ、数日間続くものもあります。最近は非常によく効く吐き気止めのお薬があり、お薬で十分コントロールできるようになっています。患者さんによって症状の程度はさまざまですが、嘔吐が続いて水も飲めなくなったり、長く続く場合には水分と栄養の補給が必要になってきますので、がまんせずに医師や看護師、薬剤師に連絡しましょう。
7-6)粘膜障害(口内炎、下痢、胸焼け)
抗がん剤により組織の粘膜が傷ついて、治療後、数日から数週間で口内炎、胸焼け、下痢が起こることがあります。脱水症状になるのを防ぐため、スポーツドリンクなどで水分を十分に補給するとよいでしょう。症状がひどい場合はお薬で対応しますので、ご相談ください。
7-7)便秘
抗がん剤によって起こるのは下痢だけでなく、便秘にもなることがあります。便通をコントロールするためには、十分に水分をとりましょう。症状に合わせて、便をやわらかくするお薬や腸を刺激して排便を促すお薬を使用することがあります。
7-8)脱毛
治療を開始してから3~4週間が経つと、ほとんどの患者さんは髪の毛が抜けてしまいます。これは毛髪を作る細胞の分裂が活発に行われているため、抗がん剤の影響を受けやすいからです。眉毛やまつげなどの体毛が抜け落ちることもあります。残念ながら今のところ脱毛を予防する有効な方法はありませんが、脱毛は一時的なもので、治療が終われば3ヶ月ほどで再び髪が生え始め、それから約半年でもとの状態にもどります。髪の長い方は治療が始まる前に短くカットしておくとよいでしょう。中性のシャンプーを使用したり、洗髪時に強くこすらないなど頭皮への刺激を控えるとよいかもしれません。
7-9)血管の痛み、点滴が漏れたときの痛み
点滴中にお薬が血管の外に漏れると炎症を起こして非常に痛くなったり、場合によっては皮膚がただれてしますことがあります。点滴中に針を刺した周囲の痛みや腫れに気が付いたら、すぐにお知らせください。必要に応じてステロイド剤など局所注射をすうことがあります。
7-10)その他の副作用
その他、抗がん剤の副作用として、からだがだるい、味覚が変化する、爪が変色する、涙目になる、肝臓や腎臓への影響などがあります。いつもと違う症状に気が付いたらがまんせず相談しましょう。
7-11)悪性リンパ腫の治療で使用する主な薬剤と特徴的な副作用
リツキシマブ(リツキサン):点滴している最中にアレルギー症状に似た熱が出たり、頭痛がしたり、からだがかゆくなったり、ぶつぶつがでたりすることがあります。これらの症状はあらかじめ予防するお薬を投与することで防ぐことができますが、投与中にいつもと違うなと感じたら、すぐにお知らせください。投与後しばらくしてから(24時間以内)現れることもあります。ほとんどは1回目の治療のときに起こるようです。
シクロフォスファミド(エンドキサン):投与後、2~5日後に出血を伴う膀胱炎を起こすことがあります。排尿時に痛い、尿に血が混じって痛い、尿が出にくいなどの症状に気がついたら、すぐに連絡してください。膀胱炎の予防のため、点滴する日は、十分水分をとって、たくさん尿がでるようにしましょう。
アドリアマイシン(アドリアシン):治療を続けていくうちに心臓に負担がかかり、心臓がどきどきする、息ぎれがするなどの症状がでることがあります。症状に気がついたらご相談ください。またアドリアマイシンが尿中から排泄されると尿が赤っぽくなりますが、これは特に問題ありません。投与後24時間以内にはもとに戻ります。但し、24時間以上経っても尿が赤かったり、痛みを感じたら膀胱炎の可能性がありますので、ご相談ください。
ビンクリスチン(オンコビン):手や足の指がしびれたり、違和感を感じたりすることがあります。治療が終わると少しずつ良くなりますが、もとに戻るまでしばらく時間がかかる場合があります。また便秘ぎみになります。治療中はお通じをよくしておくことが大切です。便がでにくいと感じたら、ご相談ください。
プレドニゾロン(プレドニン):便が出にくい、食欲が出すぎる、むくむ、夜寝付けないなどがありますが一時的なものですので、しだいに元に戻ります。気になる症状があったら、がまんせずご相談ください。
イリノテカン(トポテシン):副作用として投与してから24時間以内に起こる下痢と24時間以降に起こる下痢があります。この下痢の予防に漢方薬が有効であるとされています。便通の変化には十分な注意が必要です。
その他にも悪性リンパ腫の治療で使用されるお薬はたくさんあります。副作用の発現には個人差が大きく、現れる副作用の種類、程度、時期は人によって大きく異なり、上記以外の副作用が現れることがあります。私たちはできるだけ早く副作用を発見し、あなたのためにもっとよい対策を立てたいと考えています。常に体調の変化に気をつけ、何かいつもと違うと感じたら、がまんせず医師、看護師または薬剤師にご相談ください。
(8)入院生活
治療効果を確認し、副作用の程度を観察するために、治療の初めの頃に入院していただく事があります。治療の強さ、症状の度合いなどによって入院期間は変わってきます。入院期間中は、ストレスを溜め込みすぎない事が大事ですが、医師、看護師または薬剤師に指導された事はきちんと守ってください。理解や納得できない事がありましたら、遠慮せずお尋ねください。
処方された薬をきちんと服用していただく事が重要です。また、病院から出されたもの以外の、漢方薬・健康食品などに関しては必ず相談してください。これらの中にはきちんとした根拠もないのに「がん」を治すなどと謳っているものも多く、中には逆効果で治療の妨げになるものもあります。ご家族や友人等が善かれと思って持ち込まれる事も多いのですが、一番重要なのはあなたの病気を良くする事ですので、必ず御相談してください。
入院中でも時期によって、安静が重要な時期と、比較的安全で外出外泊等も可能な時期があります。外出外泊等の御希望も医師または看護師にご相談ください。
入院治療で治療効果が十分で、副作用も強すぎない(許容範囲内)である事が分かり、外来治療で可能な治療であれば外来治療に切り替えていきます。
(9)通院治療
1) 外来化学療法とは
外来化学療法とは、抗がん剤を使用した薬剤治療法(以下化学療法という)を入院ではなく外来に通院しながら受ける点滴による治療法です。
2) 外来化学療法の利点
外来で通院しながら治療を受けることにより、長期入院の必要がなくなります。仕事や、家事、家族との時間の共有といったこれまでの日常生活を継続しながら治療を行うことができ、患者様のQOL(Quality of Life/生活の質)を維持できる事が最大の利点です。また、長期入院による医療費の負担の軽減にもつながります。
3) 外来化学療法の注意点
入院による治療とは異なり、化学療法後の状態を医師や看護師ではなく、患者様ご自身、またはご家族の方が観察する事となります。安全・安楽に治療を継続するためにはまず副作用について知っていただく必要があります。
【抗がん剤による副作用と日常生活のポイント】
【その他の副作用】(症状の出現時期を特定できないもの)
外来で治療後いつもと調子が違ったり、副作用が出た場合はすぐに病院に連絡がとれるようになっています。
医療者と患者様の関係は、双方のコミュニケーションが大切となります。医療者は、患者様がお考えになっていること、不安に過ごされている事に対してできる限りの援助をしたいのです。コミュニケーションが上手にとれない事により、よりよい治療の妨げになる事もあります。聞きたいことは遠慮せずに聞きましょう。そのためには、尋ねたい事・伝えたい事、また説明されたことはメモを取ることをお勧めします。医療者と一緒に上手に治療をすすめていきましょう。
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