(1)はじめに:非ホジキンリンパ腫とは
血液細胞の一種である白血球は、さらに何種類かの細胞に分けられますが、そのうちのリンパ球とよばれる細胞が腫瘍化した病気で、腫瘍化したリンパ球が身体のなかで塊(腫瘤)を作る場合に「悪性リンパ腫」、骨髄中で増えて血液中をまわる時に「リンパ性白血病」と表現します。しかし、これらは厳密に区別できない場合もあります。
悪性リンパ腫はさらに「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」に分けられます。腫れている組織(リンパ節など)をとってきて、顕微鏡で観察し、そこに非常に大きな「ホジキン細胞」や「リードステルンベルグ細胞」と呼ばれる特殊な腫瘍細胞がみつかった場合に「ホジキンリンパ腫」と診断名をつけ、一方それらの大型腫瘍細胞が見つからない場合には「非ホジキンリンパ腫」という診断名をつけます。
(2)疫学:
我が国での発生は、1年間に数千人の方が発症していると言われますが、近年増加傾向にあります。各々の組織型毎に、発生しやすい年齢、地域等が異なっています。
日本では、ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫全体の1割程度を占めるにすぎず、大部分が非ホジキンリンパ腫になります。
非ホジキンリンパ腫は更にWHO分類という病理学的分類によって、非常に多種類の病型に分類されます。
(3)病因病態:
悪性リンパ腫において、明らかな一つだけの原因というものはありません。リンパ腫に限らず、「がん」は遺伝子にキズがついて発症しますが、キズをつける原因としては様々な要素が関係しています。ウイルス感染、放射線、紫外線、ある種の薬剤、ホルモン、様々な炎症性の病気、加齢など複数の要因が重なって、発病すると考えられています。
悪性リンパ腫は身体の中のどこからでも発生します。非ホジキンリンパ腫の6割はリンパ節が腫れて発病します。残りの4割はリンパ節以外の身体中のどこからでも発生します。全身のいろいろな臓器の腫瘍として発見されますので、他の「がん」との鑑別が重要になります。
特殊な病型として血管内リンパ腫と呼ばれるものがあり、この場合は塊を作らずに身体中の血管内に腫瘍ができ、不明熱と多臓器不全として発病する事が多く、診断も治療も難しくなります。
(4)診断方法
悪性リンパ腫の診断は、腫れているリンパ節やその他の腫瘍の組織を「生検」といって採取し、それを病理医が顕微鏡で観察する事で診断されます。できるだけ詳しい検査を行うために、ある程度の大きさの組織をとる事が望ましいとされています。ある程度の大きさの組織がとれた場合は、病理診断以外に、フローサイトメトリーという細胞表面のタンパク質の性質を調べる検査や、染色体分析という検査を行う事で、より詳しい診断をつける事ができ、治療方針を決めるのに役立ちます。
(5)治療方針
悪性リンパ腫は全身のどこからでも発生するため、かつては各科で治療がそれぞれに行われていた時代がありました。しかし発生部位は異なっても、基本的には血液の腫瘍であり、治療法の選択や投与法および副作用対策などが複雑なため、血液内科医が中心となって治療を行う必要があります。
悪性リンパ腫の治療方針は、主に病理組織型(悪性度)、病期(ステージ)、発生部位などの要素により、決定します。
治療方針決定のための必要事項:
リンパ腫は、あらゆる臓器から発生し、またきわめて多様な病型から構成されています。
以下の要素に留意し治療方針を決定します。
1)病理組織型、悪性度:治療方針を決める最も重要な情報です。
病理組織学悪性度より悪性度を以下の如く分けます。
2)発生部位:特に節外臓器原発
節外臓器の原発の場合は、リンパ腫があるためにその臓器機能が障害されている可能性があります。また、その臓器における慢性的な炎症が病気の発生要因になっている事もあり、基礎となる慢性炎症による症状が加わる事があります。治療にあたっては、これらの要素を考える必要があります。
3)病期
悪性リンパ腫ではAnn-Arbor臨床病期分類と呼ばれる固有の病期分類を使います(他の固形がんではTNM分類と呼ばれる病期分類を用いています)。病期を確定するためには、全身CT、Ga-scanあるいはFDG-PET、骨髄穿刺生検などの検査が必須となります。
- I期:1箇所だけリンパ節が腫れている
- II期:複数のリンパ節が、上半身あるいは下半身のいずれかで腫れている
- III期:複数のリンパ節が、上半身と下半身の両方で腫れている
- IV期:リンパ節以外の臓器(骨髄、肝臓、肺、脳など)に転移している
4)初発か、再発か?
5)心、肺、肝、腎、骨髄などの重要臓器の予備能力:
各種血液検査や心エコー、動脈血ガスなどでチェックします。
(6)治療の実際
局所療法(外科切除、放射線照射)の適応は限られ、全身的治療(化学療法)による根治療法を基本とします。
6−1、放射線療法
適応は非常に限られます。しかし、以下の場合には重要です。
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